自分の貧しい経験にだけ頼っていた僕の人生は…
自分の貧しい経験にだけ頼っていた僕の人生は…
~『今につながる日本史』を読んで~
丸山淳一著 中央公論新社刊
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
立命館アジア太平洋大学学長の出口治朗さんは、巻末の著者との対談で、ビスマルクのこの言葉を引き合いに出し、「(震災の対応について)経験から学ぶだけでは、人生のどこかで震災が起こらなければ対応策を学べません。でも人類の歴史は5千年ありますから、時間軸を延ばせば様々な対応策を学ぶことができます」といいます。
まさに、この本は、古代、中世、近現代、と時間軸を自在に行き来しながら、今日、僕たちの直面する様々なニュースと歴史的出来事の相似性を見出し、本質を読み解くという趣向の本です。いわば「賢者の本」といったところでしょうか。
著者の丸山淳一さんには、読売新聞で経済部記者、論説委員、経済部長、熊本県民テレビ報道局長などを歴任された筋金入りの報道マン。当時、僕が担当していたBS日テレの「深層NEWS」のキャスターとして丸山さんをお迎えして以来、大変お世話になっています。
経歴からは、経済畑が専門なんかと思いきや(もちろん専門ですが)、大の歴史好き。番組でも経済がテーマの時よりも歴史もの(深層NEWSでは、末裔シリーズなどと言いながら、歴史的人物の末裔の方々をお招きした放送を何回かお届けしました)の時の方が、ノリノリで本番に臨まれていと記憶している程です。失礼ながら。
さて、こちらの著作、今日のニュースを過去の歴史的出来事と相照らしながら読み直すというと、多少堅苦しく、小難しいのかと思われる向きもあるかと思いますが、あにはからんや、高校時代、世界史選択で、日本史をまともに学んだ経験のない僕でも、大変面白く読むことができました。
・デフレ脱却の秘策「勝ち組」信長と「負け組」信玄
・忖度?公文書書き換え江戸時代も 将軍が自ら追及
・あの会社の騒動も?義挙か謀反か、忠臣蔵の真実
・戦国のおっさんずラブ 英雄たちの恥ずかしい手紙
・「柔道の父」と「二刀流の祖」熊本と五輪が結ぶ縁
本書のうちからいくつかを拾い挙げたタイトルを見ても分かるように、取り上げるテーマも、政治、経済、外交、にとどまらず災害、暮らし、スポーツまでと幅広く、いくら歴史好きとはいえ、丸山さんには、いったいどれほどの引出があるのだろうと、驚きを超えてあきれてしまいました。
また、歴史は、時代時代で解釈が変わったり、研究の結果これまでの通説が覆ったりするのが常です。なので、歴史について書く場合には、特に多くの史料、文献、先行研究など、さまざまな文献に当たる必要があるわけです。
この本の中には、取り上げた歴史的出来事についての通説、新説、俗説などが、様々な文献から網羅されていて、歴史的出来事そのものの基礎知識が詰まっています。今日のニュースを別の角度から読み直すだけでなく、歴史そのものの基礎知識をはぐくむという意味からも「一般教養の書」とも言えるでしょう。
歴史好きに限らず、特に若い人には、ぜひ手に取って読んでみてもらいたいと思います。
著者の丸山さん、実は、歴史以外に「天一(ラーメンの天下一品)のことなら一晩中でも語り明かせる」というほどの「天一」マニアでもあります。歴史とラーメンをこよなく愛する丸山さんには、『今につながる日本史』の続編を望むとともに、時間が許すのであれば『総覧・天下一品物語』もご執筆願いたいと思っている次第です。
ともあれ、まずは、皆さんも『今につながる日本史』ぜひご一読あれ。